シアヌークビル②
この日、朝起きるとあたしの喉が痛かった。
昨日鼻から海水を飲んだせいだろうと思う。本当はトレッキングに行きたかったんだけれど、この状態じゃあつまんなそうだから、町一番のマーケットに行くことにした。
喉の痛みにはスイーツ・スイーツ♪
弱った体にはちょっと衛生面が気になるけれど♪
朝のマーケットは活気があった。本当に凄かった。
ここは海に近いだけあって魚介類がとても沢山並んでいた。朝どれだろうけれどカニやらイカやら魚やら、本当に本当にすごい香りだった。
そしてTシャツやなんかの物価はシェムリアップよりもちょっと高かった。輸送費だろうか?
ここでも沢山の手足のない人が物乞いをしていた。
今にも死んじゃいそうなおばあちゃんもいた。痩せて色が悪く、一人では立つことも出来なくて、少し震えたりしていて、このおばあちゃんにはもはやお金なんて必要ないだろうって思うほど、本当にすぐに死んじゃいそうだった。
きっとこの国ではそうやって本当に死んじゃうんだと思う。道端でも、マーケットの中でも。
どんな人生だったのか。この国の歴史を振り返ると、楽だったとはそうそう思えない。あたしは、この人に最期くらい安心して迎えて欲しいと思った。
でも、きっと…。
あたしの体調と気分の悪さは結構限界で、買い物なんて全然出来なかった。
実際のところ、熱も出ちゃっていたと思う。扁桃腺が腫れていたから。
弟には言わなかったけれど、夕べから耳に抜ける感じで喉が痛くて、嫌な予感がちょっとしていた。
そんなだからイライラしちゃって、弟とトイレット・ロールの使い方で喧嘩になったりもした。…まあ、彼は怒らないからあたしが一方的に怒ってるんだけど。
あたし達は1人1巻きずつトイレット・ロールを持参していた。
でもゲストハウスに置いてあったり、トイレでも使わなかったりしたから、あたしのは丸々残っていたんだけれど、この時のあたしはすごく鼻水が出て「命の次に大切なのはトイレット・ロールかもしれない」って思うほど手放せなくなっていて、その減り方にすごく神経質になっていたのだった。
だから大事に大事に使っていたのに、なんか、減りが早い。
「ねえ、トイレット・ロールでお尻拭いてないでしょうね?このシャワーで流すんだよ」
「うん、拭いてないよ。シャワーで流して、それから拭くんでしょう?」
オマエかーーーー!!!である。てか弟じゃなきゃ事態は深刻なんだけど(笑)
「ねえ!あたし鼻水出るのよ!お尻なんて拭かなくても乾くでしょうよ!!!」
…なんだかこうして冷静に思い出すと、あたしほどちっちゃい人間はいないんじゃないかとすら思う(笑)
そんなジメジメした会話をよそに、ビーチにはうそみたいに明るい日差しが満ちていた。
ここではみんな元気で、人懐っこい。
あたしはこの日、暇だったのでビーチサイドで本を読んだりしていた。
そこにスナック売りの少女、マイが来た。彼女は学校に通っているから英語が話せる。
学校がない時はスナックが入ったかごを頭に乗せてビーチサイドをずっと歩いていく。あたしは昨日も彼女からスナックを買ったので、マイはあたしのところに来て、ハンモックを揺らしたりバナナのオヤツを半分くれたりした。お金を渡すと、要らないって言う。だからあたしはありがたく彼女のオヤツを分けてもらって、あたしとお揃いのヘアバンドを買ってあげた。
この土地の女性は、強い。経験した人なら分かると思うけれど、押しが強くて何でも「ワンダーラ、チープ、チープ」って言って売ってこようとする。
マイもスナックは買ってくれって言うんだけれど、その他のお金は受け取らない。なんか、シッカリしてるなあと思った。
例えばコレ。毛抜き。
ビーチサイドにはマッサージやマニキュア、毛抜きなんかを(頼んでもないのに)やってくれる少女やおばちゃんがいて、コレは5ドルだった。
糸を口にくわえて、上手に毛を引き抜いてくれる。
確かに技術は感心できるんだけれど、あたしはすね毛とか気にしないし、5ドルは高いと断った。
でも5、6人の少女があたしの周りに座り込んでしつこく離れなかったので、もう断る元気もなくやってもらったのだった。
この後も「私ならもっと細かい毛まで抜ける」っていうおばさんが来たり、毛抜きはメイン商品のようだった。
しつこいし、思春期の少女達は生意気だし、こういう物売りをさばくのがカンボジアでは一番大変だった。
でもね、それがこの国で生きていくということなんだろうから。
それはそれで、美しいのかも知れない。
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